江戸時代の司法書士

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われわれ司法書士の歴史を語るとき、必ずといっていいほど初っ端に出てくるのが、明治5年8月3日の司法職務定制の布告というヤツです。

この司法職務定制により、わが国の法制度を支える3つの基本的な職能として代言人(のちの弁護士)・代書人(のちの司法書士)・証書人(のちの公証人)が法定されました。一般にはこの「代書人」が司法書士の直接のルーツであるとされています。

でも、実はそれよりもはるか昔、既に江戸時代から、現在の司法書士に相当する職業は存在していました。それが「公事宿」です。

 

江戸時代、奉行所(いわば裁判所)に公事(現在で言うところの民事訴訟)を訴え出るためには、当事者本人が手続を行なわなければならず(つまり本人訴訟が原則)、現在のように弁護士に依頼して訴訟手続一切を委任する訴訟代理人は認められていませんでした。

しかし当然ながら江戸時代の一般庶民すべてが訴訟手続に精通しているわけではなく、ここに訴訟当事者の依頼を受けて奉行所に提出する書類の作成代行をしたり、必要な手続方法や訴訟技術をアドバイスしたりする「公事師」なる職業が自然発生的に誕生しました。

もっとも、公事師の中には、奉行所提出書類の作成代行にとどまらず、当事者を代理して内済(和解)の交渉を相手方と行なったり、当事者の親族や町役人・村役人に成りすまし、時には当事者が病気だと偽り付添人としてお白洲に出廷したり(事実上の訴訟代理人)、あるいはまた古い借用書を二束三文で買い取ったうえ自ら訴え出て相手方から債権回収をはかる(サービサー)ものが多くいたため、幕府は公事師を非合法な存在として取り締まる一方で、「公事宿」という、簡単に言うと《司法書士事務所兼訴訟当事者宿泊用ビジネスホテル》が幕府公認の奉行所提出書類作成代行業として認められていました。

幕府公認(≒国家資格?)で奉行所(=裁判所)提出書類作成業務を行ない、当事者に手続や訴訟技術を教示し、当事者の付添人としてお白洲に同行し・・・って、つまりは司法書士による「本人訴訟支援」のあり方そのものなんですね。

公事師や公事宿を「現在の弁護士のような存在」と見る向きもありますが、わたしはむしろ「現在の司法書士のような存在」だと思っています。

 

さて、わたしは普段、就寝前に「必殺」シリーズのDVDを1日1話ずつ視聴するのを趣味としているのですが、時代劇の中には稀に「公事師」が登場する話があります。

「必殺」シリーズ全話を見ているわけではないので、もっと登場しているのかもしれませんが、わたしの知る限りでは、必殺仕業人第15話「あんたこの連れ合いどう思う」の公事師早瀬(演ずるは清水綋治)、新必殺仕置人第23話「訴訟無用」の公事師長十郎(演ずるは城所英夫)、必殺仕事人第24話「冥土へ道連れを送れるか?」の公事師玄斉(演ずるは菅貫太郎)と、名だたる悪役俳優が公事師を演じています。

「必殺」シリーズに登場するからには、いずれも仕置仕事の標的となって闇に葬られる悪徳公事師なのですが、何故か、というかやっぱり、というか、公事師の描かれ方は弁護士チックです。まあ、悪徳司法書士などドラマで描いてもね…地味すぎますわな。

何年か前に、中村玉緒主演で、主人公が司法書士兼サラ金業者という、全国の司法書士が卒倒したトンデモない設定のテレビドラマが放映されたことがありましたが、どなたかまともな司法書士を主人公にしたドラマを作ってはもらえませんでしょうか。

 

評議員 林 徹

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